ある夏の夜の夢


彼と私が部屋の中にいる。
部屋の中には、少し大きめの机(家族でご飯を食べるような)があり、
彼はその右すみで何かを書いている。
そして私に向かって、
『しばらく休むことにした』
というようなことを告げ、
『これ読んで』
とA4の紙に書かれた、彼の直筆のメモを何枚か渡された。
(線の細い、とてもキレイな字で書かれていた)
メモの最初のほうには、お金の絵の説明(どの絵が50円玉で、どの絵が500円玉か、というような特徴の説明)が書かれていた。
そのメモを私に渡すと彼は、
『もういいよ』
と言った。
それが部屋を出て欲しいという意味だと感じた私は、
『そういうとこ好きだな』
と言った。
『え?どういう意味』
と彼が少しいぶかしげに訊く。
『そういう意味よ』
『俺のこと好きなの?』
『うん。普通にね』
私はさらりと答え、部屋を出る。
机の上には、A4の紙がまだ、2cmぐらいの厚みをもって積まれている。

何日か後、スタッフから、彼が姿を消したことを知らされる。
見せられたのは、パネルのようなものに書かれた文字と図形。
スタッフは、彼が家も売り、職場を連絡先にして、どこに行ったかわからないと言う。
スタッフは、そのパネルのようなものを見せながら、
『これは、みんなと一緒にまたやりたいってことなんだと思うよ』
と言った。
その場にいたもう一人のスタッフもそれに同意したが、(実際、パネルには“みんな”という言葉がたくさん書かれていたが)
私はそうは思わなかった。
私はパネルをさし、
『これ、どうやって渡されたの?』
と訊くと、フロッピーに入ったものが送られてきた(もしくは渡された、だったかもしれない)と言う。
改めて、彼が手書きで書いて、自分に渡してくれたメモを読み、私は泣いた。
ああ、彼が言いたかったことは、これだったのか、と。
そこには、彼の深い思考が読み取れた。(少しの悲しみと、前向きさであったと記憶している)
そして私は、彼に会いたいと思った──。