静かな鼓動


初めて『その人』に触れた時、
「この人は、これだけの存在を持っていながら、どうして“もっと”を望むのだろう」
と思った。
『その人』の持つ空気は、奥行きと深みと重さを含んでいて、
それ以上、何も望まなくても、何もかもを持っているように思えた。
けれど、『その人』の言葉を見て、その願いの裏付けを感じた。
“不安”
何もかもを持っていながら、何も持っていないような感覚。
自らが知っていることが、ほんの僅かなものに思えるほどの、視野と感性。
怖かったから拒絶していたものを、受け入れることで得た、強さ。
その“強さ”が、優しさを生み、そしてまた、空気を変える。
望むものは、遥かに遠い。
けれど、それは、ほんの小さなものなのかもしれない。
その小さなものを探して、『その人』は高みを目指す。