さかなはうたう

かなり前になりますが、友人の作・演出で、『さつき』という役をやったことがありまして、
海洋学者である教授の助手の女子大生、といった役ドコロでした。
海洋学者の『先生』は、クジラの研究にとりつかれ、捕獲した奇形のクジラの子供を人魚と思い込み、
人魚と海へ帰ろうと、ある種狂気の世界に入ってしまうのですが、それを現実に戻す、というのが『さつき』です。
最後はね、洗濯機の中で弱ったクジラの子供(=人魚)をピストルで撃つんです。
『さつき』は『先生』が好きなんだけど、自分の手の届かない世界に『先生』が行ってしまうような不安をいつも感じていて、
「どんどん遠くに行っちゃうの。待ってって言ってるのに、聞こえないの。いくら叫んでも、届かないじゃない・・・!」
って台詞があるんですね。
その頃は、この台詞の感覚が今イチつかめなくて、履いてたヒールを地面に叩き付けながら言ってたんですけど、
最近ね、なんかこの台詞がすごく、解るようになったんです。
その当時の私は、『さつき』を強くてしっかりした女の子として演じてたんですけど、
この台詞、もっと弱い『さつき』でも言えたなって。
側にいるのに自分を見ていない『先生』。
いつもどこか、遠い世界を見ている『先生』。
手を伸ばせば届くのに、心は自分の元にはない・・。
 
こないだ、その作・演出の友人と、2年振りぐらいに飲みまして、
(隣の駅に住んでるのに、近況不明だったヒトです)
あの頃わかんなかったことが解る気がしてる、って言ったら、
あの当時は俺もよくわかんなかったんだよね、だって。(笑)
枠組は書けるけど、中味は具体的にはわかんないから、って言ってました。(おいおい)
要するに、強さも弱さも、表現方法はたくさんあって、伝える方法も幾通りもあるんですよね。
演じる年齢によって解釈も違ってくるだろうし、演じる人間によっても違う。
観る側の年齢や経験によっても、伝わり方は違うだろうし、ホントに様々だな、と。
 
今演じたら、違う『さつき』だろうなぁ・・。
真面目で、ちょっと弱くて、強がりで、ありったけを『先生』に向ける『さつき』か、
イケイケ(死語?)で、気が強くて、色っぽいんだけど素直じゃない『さつき』か。
どんなのでも伝えることは出来る。
お芝居って面白い♪